一般社団法人 愛知県木材組合連合会

〒460-0017 名古屋市中区松原2-18-10

052-331-9386

052-322-3376

平成28年11月

愛知県産材利用の手引き

愛知県産スギ・ヒノキの基準強度及び横架材スパン表

75許容応力度とたわみによる断面算定の考え方

部材が外力により曲げ変形する場合、外力の作用により梁部材断面には曲げモーメントMやせん断力Qなどの断面力が生じます。 たとえば下図のような単純梁に等分布荷重ωが作用する場合、力のつり合いとモーメントのつり合いから、支点の鉛直反力は各々ωℓ/2 となります。 ss_20151016120832 次に、この梁を梁の左端(図中A)からxの距離で仮想的に切断した状態を考えます。下図の切断された梁が静止状態を保つためには、切断面に矢印の方向に作用する力QとモーメントMが必要となります。 ss_20151016150057 この力Qをせん断力、Mを曲げモーメントと呼んでいます。QMの向きは通常、Qは梁を時計回り方向に回転させる向きに、Mは梁の下端を伸ばす向きにとられます。スパン表の計算に用いている単純梁のような静定構造では、QMは梁の材質や断面形状によらず力やモーメントのつり合いのみで算定でき、この例では ss_20151016150336 となります。
次に、曲げが作用する梁の変形を考えます。 ss_20151016150426 上図の様な長方形断面の細長い梁に対して、両端に1組のモーメント荷重を作用させると、梁は下図のように変形します。 ss_20151016150516 梁の変形前後の図で梁前面に上下に描かれた直線は、梁の変形後も直線を保つこと(平面保持の仮定)が知られています。また、変形前に梁の中央(正確には図心の位置)に描かれた線は、変形後も長さが変わりません。この変形後も伸び縮みしない面は中立面と呼ばれています。これら仮定と、梁断面に生じる垂直応力度σと垂直ひずみεが比例するというフックの法則 (σ=) から、梁に生じている曲げモーメントMとたわみyの関係を示す梁の基本式(ii)が得られます。 ss_20151016150817 (ii)式で、右辺分母のEは梁材料のヤング係数であり、Iは断面2次モーメントと呼ばれる断面の性質を表す量です。例えば矩形断面の断面2次モーメントは、 ss_20151016150944 となります。上式中のbは梁幅、hは梁せいです。

(ii)式の左辺は梁の変形後の曲率なので、この式から梁の任意位置の曲率はその曲げモーメントに比例することや、同じ大きさの曲げモーメントが作用する異なる梁では、ヤング係数と断面2次モーメントの積(曲げ剛性と呼ばれます。)が大きいほど曲げの程度が小さくなることがわかります。

(ii)式に(i)の第1式を代入すると ss_20151016151148 梁両端の境界条件(この場合は両端のたわみがともにゼロ)のもとで(iii)式を積分すると、梁の任意点のたわみ角θとたわみδを求めることができます。 ss_20151016151442 下図(図 23と同一)の様に梁の一点に集中荷重が作用する場合には、曲げモーメントが ss_20151016151552 なので、これを(ii)式に代入し、前問と同じように梁両端のたわみがゼロという境界条件のもとで積分すると、たわみδを求めることができます。 ss_20151016151652 最大たわみが生じる位置は、図の様にd>eの場合には荷重Pより左側となり、(v)の上式のxによる1階微分がゼロとなる条件で求められます。 ss_20151016151845 これを(v)の上式に代入して、最大たわみδmaxは下式となります。 ss_20151016152607 跳出し梁については、これも静定梁なのでこれまでと同じように鉛直力とモーメントのつり合いより、支点反力、M図、Q図は下図のようになります。 ss_20151016152646 したがって、梁全長における最大曲げモーメントMmaxと最大せん断力Qmaxss_20151016152921 跳ね出し梁先端のたわみは ss_20151016153024 となります。

幾つかの集中荷重が同時に作用する場合には、構造材料が線形弾性体で、変形が十分小さいという微小変形仮定のもとでは「重ね合わせの原理」が成り立つので、其々の集中荷重ごとに曲げモーメントやたわみを求めて、これを足し合わせることで断面力やたわみを求めることができます。分布荷重と集中荷重が同時に作用する場合にも同様です。

次に、梁が曲げ変形しているときの応力状態を考えます。このときには前述の平面保持仮定から、断面は概ね台形状に変形します。また中立面では元の位置のままです。つまり、変形後は断面の中立面からの距離に比例して軸方向に伸縮します。 ss_20151016153124 これは、軸ひずみが中立面からの距離に比例することと同じです。応力とひずみはフックの法則で比例関係ですから、垂直応力度も同じように、中立面からの距離に比例する右図のような分布となります。細かい話は省略しますが、右図の垂直応力の合モーメントが曲げモーメントとなることから、断面に生じる垂直応力度は下式となります。 ss_20151016153149 これが単純曲げによる曲げ応力度を求める基本式です。同一断面内では、yが大きいほど応力度が大きくなりますから、断面内の最大応力度は ss_20151016153242 つまり、曲げモーメントにより生じる断面内の最大応力度は曲げモーメントMを断面係数Zで除することで計算できます。
ここで、一つ注意してほしいことがあります。ここに示したように、曲げ変形では、断面内の応力度は一定ではなく、上下端に近いところほど高い応力度となります。木造軸組では、仕口接合のためにこのような場所に切欠きを入れなければならないことがありますので、そのような場合には大きめな断面を使う、補強をするなど注意する必要があります。

最後に、梁のせん断変形について概略を説明します。せん断変形とは簡単に示すと下図右のような変形となります。 ss_20151016153435 単純ばりのスパン中央に集中荷重が作用する場合、作用点の鉛直変位δを、せん断変形の影響を考慮して求めると(vii)式になります。
ここでは部材の曲げ剛性をEI(一定),せん断剛性をGA(一定)としています。ちなみに、Gはせん断弾性係数と呼ばれる材料に固有の値でAは断面積です。 ss_20151016153732 (vii)式では、括弧の中の第1項は曲げ変形で、第2項はせん断変形の項となっています。ここで、長方形断面(幅bで梁せいhとする)ではκ=6/5、I/A=h2/12であることを用いると、(vii)式は ss_20151016154319 となり、せん断変形は梁せい/スパン比の2乗に比例して増大することがわかります。木材ではせん断弾性係数は通常E0の1/15とされており、鋼材などに比べるとせん断変形が卓越しやすい材料であるといえます。