一般社団法人 愛知県木材組合連合会

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平成28年11月

愛知県産材利用の手引き

愛知県産スギ・ヒノキの基準強度及び横架材スパン表

7付録

71製材の等級区分の判定について

本試験で使用した断面寸法(スギ120×240、ヒノキ105×180)の平角材は、製材の日本農林規格 (http://www.maff.go.jp/j/jas/jas_kikaku/pdf/kikaku_40.pdf) での甲種構造用Ⅱに該当します。

等級区分は目視等級区分と機械等級区分があります。

それぞれに品質基準が定められていますので、以下に主な測定方法と判定基準を記します。

711目視等級

ss_20151015183758 目視等級については、製材の農林規格甲種構造用Ⅱの基準により判定します。
(参考)節径比による等級付け

広い面の場合(右図)
<単独節>
(材縁) d3/W×100
(材中央) d1/W×100
材面の最大節の幅に対する割合(%)を算出。
<集中節>
(材縁) (d2+d3 +d4)/W×100
(材中央) (d1+d2+d3+d4)/W×100
材長方向15㎝以内の集中節(節径合計が最大)の材幅に対する割合(%)を算出。 ss_20151015184056

712機械等級

基準強度を算出する際のデータとしては、曲げ強度試験により判定した機械等級を採用しています。なお、非破壊試験との相関を調べるために、下記の試験も行っています。 非破壊でヤング係数を測定する方法は、製材に直接荷重をかけてたわみを測定するストレス式などいくつかの方法がありますが、最も簡便で、一般的な方法は縦振動法です。縦振動法では、以下の図のように製材の木口をハンマーで打撃し、1次の固有振動数(f)を計測します。寸法(長さL、断面寸法)、重量測定により、みかけの密度(ρ)を算出し、以下の式により動的ヤング係数(Ef)を求めます。
Ef=(2fL)2 x ρ
ss_20151015184512 曲げヤング係数と動的ヤング係数が高い相関関係にあることから、縦振動法により容易に機械等級区分することができます。測定は携帯型の低価格な装置やFFT解析のフリーソフトがインストールされたパソコンとPC用マイクがあれば特別なグレーディングマシンを導入することなく、機械等級区分を行うことができます。
本試験で得られた動的ヤング係数と曲げヤング係数の関係を示します。 ss_20151015184610

72強度性能値の補正について

721寸法効果

基準強度の算出には、試験材の梁せいをすべて150㎜の場合に補正しています。材料は、梁せいが大きくなるほど梁せいの小さな試験材より強度性能は小さくなります。これが寸法効果と呼ばれるものです。本試験では、JASの基準強度の算出方法に合わせるため、スギ試験材梁せいh=240、ヒノキh=180を標準条件であるh=150に補正しました。
よって、h0=150とは異なる梁せいの場合には、曲げヤング係数、曲げ強度ともに (h/h0)0.2 によって再度補正し直す必要があります。

722含水率

含水率補正については、以下の図のように木材は、繊維飽和点(含水率約28%)から含水率が低下するに従ってヤング係数が増加することが知られています。 ss_20151015185253 本試験の曲げ性能結果では、従来の補正方法に乗っ取り、曲げヤング係数、曲げ強度とも旧ASTMD2915により補正を行いました。近年ISOでは、乾燥により含水率が低下しても、乾燥に伴う割れの発生や、節など欠点の存在は変化しないことなどから曲げ強度については含水率補正は行わないとするなど新しい方法が採用されつつあります。

73スギ平角材の乾燥について

曲げ試験を実施した試験材から試験片を採取し、全乾法(103℃恒温器で48h乾燥)により求めた含水率からスギ丸太の含水率推定値を算出したところ95.8±22.1%(mean±SD、n=122)でした。以下の図のように全体の約4割が100%を超える高含水率丸太でした。特に、スギの場合には、心材の含水率が乾燥期間に大きく影響します。本試験で使用した丸太では、丸太を生産した林分ごとに心材含水率分布に特徴が見られ、多く試験材が高い心材含水率に偏る林分がありました。これがスギの乾燥を困難にする理由の一つです。 ss_20151015185455 この丸太の中から無作為に20本を抽出し、人工乾燥を行った結果、含水率が20%に達しない試験材が約半数ありました。そのうち、投入前に含水率100%を超えていた試験材のほとんどが乾燥終了後も25%を超える高い含水率でした。このことから、高含水率丸太から得られる製材については、天然乾燥により含水率を低減させてから人工乾燥へ移行するか、乾燥が比較的容易な小断面の部材に利用していくことが望ましいと考えられます。 ss_20151015185524 夏期から4ヶ月間の天然乾燥で、含水率20%まで低下した試験材は当初含水率が60%程度の低含水率材であり、多くは1年前後の乾燥期間を必要とします。このため、平角材のように断面寸法の大きくなるほど、多種の断面形状でまとまった数量を短期で納材することはかなり難しくなると考えられます。建築材に使用する材料の断面寸法を効率化することやこのスギ材特有の性質を踏まえて対応することが利用側に求められると考えられます。

74許容応力度算定について

741強度のばらつきと基準強度特性値0Fの算定法

木材は生物材料であり、力学的な主構造である細胞壁の性質も成長の段階や環境に応じて変動します。したがって、無欠点の理想的な小試験体ですらその強度性能はばらつきを有することが知られています。実大材では、さらに髄の位置、未成熟材の含まれる度合い、製材の材長方向と木材繊維の傾斜具合、節の含まれ方など様々な因子が力学性能に影響を与えるために、相応のばらつきを示すことになります。(図 37) ss_20151015185826 そこで、建築物の構造設計には、このような材料強度のばらつきを考慮して、非常に多くの実験データに基づく統計学的に安全な値を用います。具体的には、標準試験体を用いた標準試験により得られた強度分布の75%信頼水準における5%下限値を採用します。これが基準強度特性値0Fで、略して「基準強度」と呼ばれています。
 標準試験については、(公財)日本住宅・木材技術センタ―発行の「構造用木材の強度試験マニュアル」に詳しく掲載されており、Web上で無料入手できます (http://www.howtec.or.jp/kenkyu/m-kyoudosiken.pdf)
本書で取り扱っている実大製材の曲げ試験の場合は、梁せい150mmの試験体を用いて、曲げスパン2700mmとする3等分点4点曲げ試験が標準試験とされています。この標準試験以外の材寸や試験方法を採用した場合には、実験データを適宜補正して、基準強度の解析に用います。 ss_20151015190117 本書で記載している愛知県産スギ・ヒノキ材の基準強度も、この方法に基づき、県産材(N=210本)の実大曲げ試験(図 38)結果から解析したものです。下限値を求める方法は関数法や順位法がありますが、本書では、実験データを基に、母集団の最適分布形を解析して75%信頼水準における95%下側許容限界値を求め、これを5%下限値としました。

742基準強度特性値0Fから設計用許容応力度f決定までの流れ

まず、基準強度特性値0Fから設計用許容応力度f決定までの一連の関係式をまとめると次のようになります。( )内の数値は本書で対象とする構造用製材が通常の環境で使用される場合の係数値です。
  1. 基準材料強度F=劣化影響係数Kt(1.0)×基準強度特性値0F
  2. 基準許容応力度0F=安全係数Kf(2/3)×基準化係数K0(1/2)×基準材料強度F ⇔ 基準許容応力度0F=1/3×基準材料強度F
  3. 設計用許容応力度f=荷重継続期間影響係数Kd×寸法効果係数Kz×システム係数Ks×含水率影響係数Km×基準許容応力度0f
ここでは、上記のそれぞれの段階について説明します。
①基準強度特性値0Fから基準材料強度Fを決める
まず、基準強度特性値0Fに使用環境における劣化影響係数Ktを乗じることで、基準材料強度Fが決定されます。劣化影響係数は、通常の使用環境に対応した促進劣化試験の結果に基づいて決定されるものです。また、熱・温湿度・紫外線等の環境が通常とは異なる特殊な環境で使用する場合にも、木材の耐久性が通常とは異なると考えられますので、この点を考慮した劣化影響係数を設定しなければなりません。ただし、本書で対象としている構造用製材においては、材料の製造過程で接着剤が用いられておらず、基本的には劣化影響係数を1.0としています。
②基準材料強度Fから基準許容応力度0fを決める
次に、この基準材料強度Fから基準許容応力度0fが決定されます。ここでは、安全係数Kf(通常2/3)と荷重継続期間を考慮するための基準化係数K0を基準材料強度Fに乗じます。基準化係数は材料のクリープ破壊特性に基づいて決定される係数で、木材の場合は1/2としています。これは、基準強度特性値0Fを求める材料試験が通常10分程度で材料破壊に至るのに対し、建築物の部材には相当の長期間にわたって荷重が作用し続けることを考慮したものです。木材は粘弾性材料であるため、負荷速度が遅くなるほど破壊強度は低下し、クリープ試験による破壊強度は標準試験よりも小さいことが知られています。図 39は荷重継続期間と木材の曲げ強度の関係を示したものですが、この図によれば、10分間で破壊させた時の強度を1とすると250年間荷重下に置かれた材は約半分の強度で壊れることが予想されます。そこで、許容応力度の決定においては、この250年後の強度を基準とし、これに対して設計上想定する荷重継続期間に応じて設計用許容応力度fを決定することにしています。 以上のことから、 木材の場合には、基準材料強度Fの1/3の値が基準許容応力度0fとなります。 ss_20151016102425
③基準許容応力度0f から設計用許容応力度fを決める
②までの作業で基準許容応力度0fが得られました。これより、最終的に設計に用いる設計用許容応力度fを決定します。設計用許容応力度fは、基準許容応力度0fに荷重継続期間影響係数Kd、寸法効果係数Kz、システム係数Ks、含水率影響係数Kmの4つの係数を乗じて求めます。以下に、それぞれの係数を説明します。
荷重継続期間影響係数Kd
②で述べたように、木材の強度性能は継続的に作用する荷重の影響を受ける。②で許容応力度の基準を250年後の強度としたため、設計においては、想定する果樹継続期間に応じた係数を乗じ直すことになります。具体的には、長期(50年)は1.10、中長期(多雪地域における積雪期間・3か月)は1.43、中短期(一般地域における積雪期間・3日)は1.60、短期(10分)は2.00の係数を用います。
寸法効果係数Kz
一般に木材では、断面の大きい材料の強度が断面の小さい材料の強度を下回る傾向にあります。したがって、木質部材の強度設計を行う際には、このことを考慮しておく必要がある。そのための調整係数を寸法効果係数といいます。
 曲げモーメントに関する寸法効果係数は、次式で求められています。
 寸法効果係数Kz=(h0h)k
ここで、h0は標準試験体の梁せい、hは使用する構造用材料の梁せい、kは試験定数です。寸法効果の程度は、対象とする材の種類(製材、集成材、LVLなど)によって異なるため、設計する材料に応じた係数を設定しなければなりません。本書が対象とする製材においては、国際規格化に向けた標準試験法および標準試験体寸法の案が検討され、それに向けたデータの整備が進行しているところです。本書では、EN規格に準じて、kは0.2、標準試験体の梁せいh0を150mmとして寸法効果係数を設定した上で、スパン表を作成しています。
システム係数Ks
木材のようにばらつきを有する材料では、材料1本ずつの強度分布と比べて、複数本の平均値のばらつきは小さくなり、結果的に統計的下限値は高くなります。また、根太や垂木のように、荷重を分散して負担する目的で並列して使用される部材(並列材)においては、高い強度をもつ部材に大きな曲げ荷重が配分される(ロードシェアリング)ことにより、マルチプル効果が発揮されます。
そこで、これを加味するための係数としてシステム係数Ksを導入しますつまり、システム係数Ksは、床の根太や屋根の垂木のように、比較的小さな間隔で並べられた曲げ部材に対して、構造用合板などの面材が張られている場合のマルチプル(並列)効果が期待できる場合に用いる係数です。
通常は、次のような条件のもとに運用されています。
  1. 目視等級区分された製材(JAS)、普通構造材
    当該部材群に構造用合板またはこれと同等以上の面材を張る場合 1.25
    当該部材群に構造用合板以外の面材を張る場合 1.15
  2. 機械等級区分製材(JAS)
    当該部材群に構造用合板またはこれと同等以上の面材を張る場合 1.15
    (等級内強度のばらつきが比較的小さいため、マルチプル効果は低く見積もります)
含水率影響係数Km
木材の強度は、含水率が繊維飽和点(約28%)以上では含水率にかからわずほぼ一定となりますが、乾燥が進み繊維飽和点以下になると、含水率の低下に伴い増加します。含水率影響係数Kmはその影響を考慮するための係数で、使用環境に応じて設定します。
  • 使用環境Ⅰ:常時湿潤状態では、木材の含水率が繊維飽和点以上に達することを想定して、0.70
  • 使用環境Ⅱ:断続的に湿潤状態となる場合には、0.80
  • 使用環境Ⅲ:通常の使用環境(使用環境ⅠおよびⅡ以外の環境)では、1.00

743曲げヤング係数と曲げ強度の関係

「1.2.1 強度のばらつきと基準強度特性値0Fの算定法」で述べたように、木材はばらつきを有する材料です。木材の強度設計を行う上で重要なことは、木材の有する強度以上の外力が作用しないようにすることです。 ss_20151016120153 図 40に示すように、木材(部材)の強度性能もばらつきますが、外力にもばらつきがあります。つまり、たまたま弱い部材が使われているところに、たまたま大きな外力が作用すると部材の破壊が起こるのであり、その危険を考えて木材の強度設計を行う場合には強度分布の5%下限値が用いられます。しかし、よく考えてみると、強度性能の高い材料にとっては、強度性能の低い材料に能力を合わせることになってしまい、合理的な利用の観点からは「もったいない」ことをしているといえます。
あらかじめ、木材の強度性能を知ることができれば、部材を強度性能別にグルーピングし、それぞれのグループに応じた基準強度を設定した方が合理的です。そこで、ある程度の強度グルーピングができないかと考えますが、実際の強度は破壊しないと分かりません。この問題を解決するために、曲げ強度を予測する何らかの非破壊的な指標を探すことになります。木材強度の非破壊的な指標には、密度、年輪幅、曲げヤング係数など様々な指標が考えられますが、図 41に示すように、現在の科学では曲げ強度を予測するのに最も相関性の高い指標は曲げヤング係数です。この曲げヤング係数を指標とした強度グルーピングが機械等級区分です。 ss_20151016115839

75許容応力度とたわみによる断面算定の考え方

部材が外力により曲げ変形する場合、外力の作用により梁部材断面には曲げモーメントMやせん断力Qなどの断面力が生じます。 たとえば下図のような単純梁に等分布荷重ωが作用する場合、力のつり合いとモーメントのつり合いから、支点の鉛直反力は各々ωℓ/2 となります。 ss_20151016120832 次に、この梁を梁の左端(図中A)からxの距離で仮想的に切断した状態を考えます。下図の切断された梁が静止状態を保つためには、切断面に矢印の方向に作用する力QとモーメントMが必要となります。 ss_20151016150057 この力Qをせん断力、Mを曲げモーメントと呼んでいます。QMの向きは通常、Qは梁を時計回り方向に回転させる向きに、Mは梁の下端を伸ばす向きにとられます。スパン表の計算に用いている単純梁のような静定構造では、QMは梁の材質や断面形状によらず力やモーメントのつり合いのみで算定でき、この例では ss_20151016150336 となります。
次に、曲げが作用する梁の変形を考えます。 ss_20151016150426 上図の様な長方形断面の細長い梁に対して、両端に1組のモーメント荷重を作用させると、梁は下図のように変形します。 ss_20151016150516 梁の変形前後の図で梁前面に上下に描かれた直線は、梁の変形後も直線を保つこと(平面保持の仮定)が知られています。また、変形前に梁の中央(正確には図心の位置)に描かれた線は、変形後も長さが変わりません。この変形後も伸び縮みしない面は中立面と呼ばれています。これら仮定と、梁断面に生じる垂直応力度σと垂直ひずみεが比例するというフックの法則 (σ=) から、梁に生じている曲げモーメントMとたわみyの関係を示す梁の基本式(ii)が得られます。 ss_20151016150817 (ii)式で、右辺分母のEは梁材料のヤング係数であり、Iは断面2次モーメントと呼ばれる断面の性質を表す量です。例えば矩形断面の断面2次モーメントは、 ss_20151016150944 となります。上式中のbは梁幅、hは梁せいです。

(ii)式の左辺は梁の変形後の曲率なので、この式から梁の任意位置の曲率はその曲げモーメントに比例することや、同じ大きさの曲げモーメントが作用する異なる梁では、ヤング係数と断面2次モーメントの積(曲げ剛性と呼ばれます。)が大きいほど曲げの程度が小さくなることがわかります。

(ii)式に(i)の第1式を代入すると ss_20151016151148 梁両端の境界条件(この場合は両端のたわみがともにゼロ)のもとで(iii)式を積分すると、梁の任意点のたわみ角θとたわみδを求めることができます。 ss_20151016151442 下図(図 23と同一)の様に梁の一点に集中荷重が作用する場合には、曲げモーメントが ss_20151016151552 なので、これを(ii)式に代入し、前問と同じように梁両端のたわみがゼロという境界条件のもとで積分すると、たわみδを求めることができます。 ss_20151016151652 最大たわみが生じる位置は、図の様にd>eの場合には荷重Pより左側となり、(v)の上式のxによる1階微分がゼロとなる条件で求められます。 ss_20151016151845 これを(v)の上式に代入して、最大たわみδmaxは下式となります。 ss_20151016152607 跳出し梁については、これも静定梁なのでこれまでと同じように鉛直力とモーメントのつり合いより、支点反力、M図、Q図は下図のようになります。 ss_20151016152646 したがって、梁全長における最大曲げモーメントMmaxと最大せん断力Qmaxss_20151016152921 跳ね出し梁先端のたわみは ss_20151016153024 となります。

幾つかの集中荷重が同時に作用する場合には、構造材料が線形弾性体で、変形が十分小さいという微小変形仮定のもとでは「重ね合わせの原理」が成り立つので、其々の集中荷重ごとに曲げモーメントやたわみを求めて、これを足し合わせることで断面力やたわみを求めることができます。分布荷重と集中荷重が同時に作用する場合にも同様です。

次に、梁が曲げ変形しているときの応力状態を考えます。このときには前述の平面保持仮定から、断面は概ね台形状に変形します。また中立面では元の位置のままです。つまり、変形後は断面の中立面からの距離に比例して軸方向に伸縮します。 ss_20151016153124 これは、軸ひずみが中立面からの距離に比例することと同じです。応力とひずみはフックの法則で比例関係ですから、垂直応力度も同じように、中立面からの距離に比例する右図のような分布となります。細かい話は省略しますが、右図の垂直応力の合モーメントが曲げモーメントとなることから、断面に生じる垂直応力度は下式となります。 ss_20151016153149 これが単純曲げによる曲げ応力度を求める基本式です。同一断面内では、yが大きいほど応力度が大きくなりますから、断面内の最大応力度は ss_20151016153242 つまり、曲げモーメントにより生じる断面内の最大応力度は曲げモーメントMを断面係数Zで除することで計算できます。
ここで、一つ注意してほしいことがあります。ここに示したように、曲げ変形では、断面内の応力度は一定ではなく、上下端に近いところほど高い応力度となります。木造軸組では、仕口接合のためにこのような場所に切欠きを入れなければならないことがありますので、そのような場合には大きめな断面を使う、補強をするなど注意する必要があります。

最後に、梁のせん断変形について概略を説明します。せん断変形とは簡単に示すと下図右のような変形となります。 ss_20151016153435 単純ばりのスパン中央に集中荷重が作用する場合、作用点の鉛直変位δを、せん断変形の影響を考慮して求めると(vii)式になります。
ここでは部材の曲げ剛性をEI(一定),せん断剛性をGA(一定)としています。ちなみに、Gはせん断弾性係数と呼ばれる材料に固有の値でAは断面積です。 ss_20151016153732 (vii)式では、括弧の中の第1項は曲げ変形で、第2項はせん断変形の項となっています。ここで、長方形断面(幅bで梁せいhとする)ではκ=6/5、I/A=h2/12であることを用いると、(vii)式は ss_20151016154319 となり、せん断変形は梁せい/スパン比の2乗に比例して増大することがわかります。木材ではせん断弾性係数は通常E0の1/15とされており、鋼材などに比べるとせん断変形が卓越しやすい材料であるといえます。

76和小屋について

今回作成した「県産材利用の手引き」に収録したスパン表では、「和小屋」の垂木・母屋のスパン表掲載を見送りました。これは、在来軸組構造で用いられる和小屋組にいくつかのバリエーションが存在しており、これらの整理を行ったうえでスパン表を作成することが望ましいと考えたことによります。
「和小屋」とは、「洋小屋」と対になる定義と考えられます。通常、軒桁の間に小屋梁を架け、この上に小屋束を建て母屋と棟木を支える架構で、軒桁・母屋・棟木の上に垂木を載せ、屋根下地(野地板)を介して上部の荷重を支えます。 ss_20151016213632 これまでは、1尺~1.5尺ピッチで比較的小断面(45×45程度)の垂木をかけ、3尺ピッチに配置した3寸角材程度の母屋で垂木を受け、小屋束を介して母屋からの荷重を小屋梁で支える形式が主流であったと考えられます。また小屋梁には湾曲した丸太材もよく使われていました。さらに、梁スパンの小さい架構や茅葺き屋根などの場合では、下図のような「さす組(合掌)」もしばしば用いられました。 ss_20151016213702 今日でも和小屋は幅広く使われていますが、小屋梁は平角材が一般的となってきています。また、屋根下地が挽板の野地板から構造用合板に置き換わるにつれ、断面サイズの大きな垂木や母屋を使い、母屋ピッチや小屋梁ピッチを広くとった和小屋も多くみられるようになってきました。 ss_20151016213745 この方式は、これまでの和小屋に比べ屋根裏空間が利用しやすくなる利点があります。屋根下地として厚板の構造用合板を用いれば、垂木ピッチをさらに広げられるので、垂木のかわりに断面の大きな登り梁を用い、母屋を使わない登り梁方式の小屋組が用いられることも増えてきています。 ss_20151016213815